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2026.6.29

役員報酬の決め方:創業期に押さえたいルールと考え方を税理士が解説

川越・ふじみ野エリアの税理士事務所「ワタリエ会計事務所」です。

法人を設立したとき、最初に悩むテーマのひとつが 役員報酬の決め方 です。役員報酬は一度決めると原則として1年間変更できず、税金や社会保険料、融資審査にまで影響が及びます。

この記事では、創業期の経営者が役員報酬を決めるときに知っておきたいルールと、金額を考えるための視点を整理しました。

この記事のポイント

  • 役員報酬は期首から3ヶ月以内に決定し、期末まで毎月同額を支払うのが原則(定期同額給与)。設立初年度は支給開始の時期にも注意

  • 金額は「役割に見合った範囲」が前提。そのうえで生活費、会社の資金繰り、法人と個人の税率バランスの順で考える

  • 社会保険料や融資審査への影響も含めて総合的に判断する

  • 役員報酬の決定は株主総会の決議事項。決めた金額とあわせて、決定の経緯も記録しておく

  • 個人の生活費を確保できるなら、会社にお金を残して経営の基盤を厚くしていくのが基本

役員報酬の基本ルール「定期同額給与」とは

定期同額給与とは、毎月同じ金額を支払い続けることで、役員報酬が損金(経費)として認められる支給方法のことです。法人税法で定められた役員給与の取り扱いのひとつで、創業期の法人はほとんどがこの形をとります。

押さえておきたいルールは次の3つです。

  • 金額の決定(改定)は、事業年度開始の日から3ヶ月を経過する日までに行う

  • 決めたら期末まで毎月同額を支払い続ける

  • それ以外の時期に増額・減額すると、原則として差額分が損金不算入(経費にならない)

「今月は資金が厳しいから減らそう」「利益が出たから増やそう」という調整は基本的にできない仕組みです。最初の設定が、その1年間の税負担や資金繰りを左右することになります。

設立初年度も「3ヶ月以内に決めて、支給も始める」

設立直後は「売上の見通しが立たないから、1期目はしばらく報酬ゼロにしておこう」と考える方も多いと思います。しかし、1期目から役員報酬を出すつもりがあるなら、初年度も原則どおり、設立から3ヶ月を経過する日までに金額を決めて、支給も始めておくのが安全です。

ここで効いてくるのが、さきほどの「期の途中での増額・減額は損金不算入」というルールです。設立当初から役員として活動しているのに報酬をゼロにしておき、3ヶ月の期限を過ぎてから支給を始めると、これは「ゼロから報酬を増やした(増額改定)」とみなされる考え方が有力です。設立初年度の取り扱いを直接定めた明文の規定はありませんが、増額改定とされれば改定期限を過ぎた変更になるため、たとえば設立半年後に支給を始めた報酬は損金不算入になりかねません。

なお、金額は控えめなところから始めても問題なく、翌期の株主総会で見直せます。1年間無報酬でも問題ない場合を除き、まずは期限内に決めて支給を始めておきましょう。

役員報酬はいくらにする?3つの視点から逆算する

前提として、役員報酬はそもそも「経営を委ねられていること(職務の委任)に対する対価」です。本来は、担っている役割や責任に見合った金額にするのが原則で、職務の実態とかけ離れた高すぎる報酬は税務上も問題になることがあります。

そのうえで、具体的にいくらにするかは、役割に見合う範囲のなかで、まず生活費、次に会社の資金繰り、最後に法人と個人の税率バランス、という順番で考えていくと、ちょうどよい水準を決めやすくなります。

1. 生活費から逆算する

まず、経営者自身の毎月の生活費(手取り)がいくら必要かを把握します。家賃や住宅ローン、食費、教育費、保険料などを洗い出し、役員報酬から所得税・住民税・社会保険料を引いた手取りでまかなえるかを確認します。

手取り額は、報酬月額が30〜40万円程度であればおおむね額面の7〜8割です。この割合は報酬が高くなるほど下がっていきます。月30万円の手取りが必要なら、額面で月38〜43万円程度がひとつの目安になります。

2. 会社の利益・資金繰りから逆算する

役員報酬は、売上にかかわらず毎月出ていく固定費です。報酬を高くするほど法人に残るお金は減り、資金繰りの自由度も下がります。会社員から独立された方が、会社員時代の収入を基準に報酬を考えてしまい、1年目の資金繰りが思ったより窮屈になった、という話はよく耳にします。独立後は社会保険料の会社負担分なども自分の会社にかかってくるので、「前職の年収」はいったん脇に置いて考えるのがおすすめです。

私たちは、個人の生活費を確保できるなら、残りは法人に置いて会社に残る資金を厚くしていくのが基本だと考えています。創業期は想定外の費用が出るなど計画通りにいかないことも多いので、確かな見通しがある場合を除き、報酬はやや保守的に見積もっておくと資金繰りに悩みにくくなります。

3. 法人と個人の税率バランスで調整する

役員報酬を高くすれば、その分が個人の所得になって所得税・住民税がかかります。逆に低くすれば、会社に利益が残って法人税等がかかります。同じ利益を「個人で受け取って課税されるか、法人に残して課税されるか」の振り分けだと考えるとわかりやすいです。

どちらが軽くなるかは、ざっくり次のように整理できます。

  • 報酬を抑えて法人に利益を残す場合:中小法人の実効税率が目安になり、所得800万円以下の部分はおよそ23%前後、超える部分はおよそ34%前後

  • 報酬を増やして個人で受け取る場合:所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進で、住民税や社会保険料も連動して増える。報酬がある水準を超えると、個人側の負担率が法人側を上回りやすい

会社と個人を一体として見るなら、生活費を確保したうえで残りは法人に置くほうが負担は軽くなりやすい、というのが大まかな傾向です。具体的な税率は改正で変わるため、金額を決める際は、その時点の前提で概算のシミュレーションをおすすめします。

なお、法人に残したお金は、個人がそのまま自由に使えるわけではありませんが、会社を退くときに役員退職金として受け取る方法があります。退職所得は税制上の優遇が大きく、損金算入額は退任時の報酬月額をもとに計算されるのが一般的です。会社にお金を残しながら、将来の退職金の受取りも視野に入れて報酬額を徐々に増やしていく、というのが創業期からの自然な流れです。

社会保険料と融資審査にはどう影響する?

社会保険料は報酬額に連動する

法人の役員は健康保険・厚生年金への加入が義務で、保険料は役員報酬の額(標準報酬月額)に連動します。保険料率は会社負担分と個人負担分を合わせておよそ30%なので、報酬を上げると思った以上に負担が増えます。なお、保険料計算のもとになる標準報酬月額には上限があり、一定の水準を超えると保険料はそれ以上増えない仕組みになっています。

報酬を極端に低くすれば保険料は抑えられますが、そのぶん将来の年金受給額も減ります。また、報酬ゼロだと社会保険に加入できず、国民健康保険・国民年金のままになる点も知っておきたいところです。

融資審査では「バランス」が見られる

金融機関は融資審査で決算書を確認する際、役員報酬の設定もチェックしています。役員が生計を立てられないような低い報酬やゼロの状態だと、「事業から生活費をまかなえていないのでは」と見られることがありますし、逆に報酬が高すぎて法人が赤字だと、法人の返済能力に疑問を持たれやすくなります。

役員報酬と法人利益のバランスが取れていることが、金融機関からの信用につながります。融資を視野に入れている場合は、この点も意識して設定したいところです。

夫婦・家族で経営する場合の報酬の考え方

配偶者や家族も役員として経営に関わる場合は、報酬の「分け方」も検討ポイントになります。所得税は累進課税なので、1人に集中して支払うより、働きに応じて2人に分散したほうが、世帯トータルの税負担を抑えられるケースがあるためです。

押さえておきたいのは、役員報酬は従業員の給与と性質が異なる点です。雇用契約に基づく労働の対価ではなく、経営を委ねられていることへの報酬なので、勤務時間だけで金額が決まるものではありません。実務上は、担っている役割に応じた水準を設定し、その役割を説明できるようにしておくのが基本です。経営にほとんど関与していない家族への高めの報酬は、「不相当に高額」として否認されるリスクがあります。

また、家族を役員にするか、従業員として給与を支払うかでも、税務や社会保険の取り扱いは変わってきます。家族で創業する場合は、税負担のシミュレーションだけで決められる問題ではなく、それぞれの働きと役割に見合った報酬になっているかが大切です。迷ったときは、設立前の段階から税理士に相談しながら決めていくことをおすすめします。

役員報酬を決める手続き:株主総会の決議と議事録

役員報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議事項です。株主総会では報酬の総枠だけを決めて各人別の配分を取締役側に委ねる方法もありますが、小規模な会社では、株主総会で各人別の金額まで決めてしまうケースが多いように思います。いずれの形でも、決議の内容は議事録として作成・保管しておきましょう。ひとり法人でも同じです。

そのうえで、「なぜその金額にしたのか」という経緯も簡単に記録しておくのがおすすめです。本質は報酬額を合理的に説明できることですが、決めた当時の売上見通しや判断の理由は、時間が経つと思い出せなくなりがちです。メモが残っていれば、税務調査などの場面で説明する材料になります。

なお、役員報酬のうち「不相当に高額」と判断された部分は損金不算入になります(法人税法第34条第2項)。創業期にすぐ問題になるケースは多くありませんが、報酬を増やすときは、売上や利益の拡大、職務範囲の変化といった裏付けとセットで考えるのが基本です。

役員報酬を変更できるタイミングは?

原則として、事業年度開始から3ヶ月以内の株主総会等での改定に限られます。

  1. 事業年度開始から3ヶ月以内の改定(株主総会等の決議を経て行う通常の改定)

  2. 経営状況が著しく悪化した場合の減額(業績悪化改定事由)

このほか、役職や職務内容の大きな変更といった臨時の事由による改定が認められる場合もありますが、創業期に出番のあるケースは多くありません。2の業績悪化改定も、「思ったより売上が伸びなかった」という程度では該当しないと考えられています。だからこそ、最初の設定は保守的に見積もっておくほうが安全だと考えています。

創業期に多い失敗パターン

失敗パターン

起きやすい問題

報酬を高くしすぎた

法人の資金繰りが苦しくなり、受け取った報酬を会社に戻して「役員借入金」が膨らんでいく

報酬を低くしすぎた

個人の生活費が足りず、会社のお金を引き出して「役員貸付金」が発生。融資審査で大きなマイナスになる

期首から3ヶ月を過ぎて増額・減額した(無報酬からの支給開始も含む)

定期同額給与に当たらない変更となり、差額や支給額が損金不算入に

議事録を作成しなかった

決定の時期や金額の根拠を示せず、税務調査での説明に苦労する。会社法上の手続き不備にもなる

まとめ

  • 役員報酬は期首から3ヶ月以内に決め、期末まで毎月同額を支払うのが原則。設立初年度は支給開始の時期にも注意

  • 金額はまず生活費、次に会社の資金繰り、最後に法人と個人の税率バランスという順番で考える

  • 社会保険料や融資審査への影響もあわせて判断する

  • 家族で経営する場合は、担っている役割に応じた報酬の分け方を検討する

  • 報酬は株主総会で決議して議事録と経緯を残す。生活費を確保できるなら、会社にもお金を残して基盤を厚くしていく

よくある質問

役員報酬をゼロにしても問題ない?

法律上は可能で、1年間無報酬でも生活に支障がないなら選択肢のひとつです。一方で、社会保険に加入できない、融資審査で不利になりやすいといった面があるため、少額でも設定しておくケースが多いです。

ひとり法人でも株主総会議事録は必要?

必要です。株主が自分ひとりでも、報酬額の決定は株主総会の決議事項です。議事録を作成・保管しておくことで、税務調査の際の裏付けになります。

設立1期目の役員報酬は、いくらにする人が多い?

業種や事業計画によって幅があるため、一概には言えません。考え方としては、生活費として必要な最低ラインを確保しつつ、会社に資金が残るよう控えめにスタートし、翌期の見直しで調整していく方法が現実的です。

役員には賞与を支払えないの?

支払うことはできますが、役員賞与は原則として損金不算入です。「事前確定届出給与」としてあらかじめ税務署に届け出れば損金算入が認められますが、届出の期限や、届け出たとおりの金額・時期で支給するといった条件があるため、検討する場合は早めの準備が必要です。

期中に報酬を下げたい場合はどうすればいい?

「経営状況の著しい悪化」に該当すれば期中の減額改定が認められますが、単に売上が予想より伸びなかったという程度では該当しないと考えられています。減額が必要になりそうな場合は、早めに税理士に相談することをおすすめします。

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この記事を書いた人

ワタリエ会計事務所 公認会計士・税理士 五反田 航

川越・ふじみ野エリアの税理士事務所。会社設立から創業後の税務・経理まで、freeeを活用したサポートをしています。


本記事は2026年6月時点の情報に基づきます。税制・許認可・融資の最新情報は、国税庁・日本政策金融公庫・所管省庁等の公式サイトでご確認ください。

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