
会社設立
2026.6.5
個人事業主と法人どっちがいい?法人化のタイミングと判断軸を税理士が解説
埼玉県ふじみ野市の税理士事務所『ワタリエ会計事務所』です。
「個人事業主と法人、どちらで始めればいいですか?」「法人化っていつ頃がいいんですか?」私たちが創業のご相談でよくいただく質問が、この「個人か法人か」のテーマです。
どちらで始めるか、そしていつ法人化するかは、事業の内容や規模、これからの方向性によって変わります。本記事では、私たちが日々の相談現場でお伝えしている判断のポイントを、できるだけわかりやすく整理しました。ご自身の状況に当てはめながら読んでいただければと思います。
この記事のポイント
多くの場合、まず個人事業主で始めて、タイミングが来たら法人化するのが一般的
法人化のメリットは信用力・社会保険・退職金制度の活用・節税の幅が広がることなど
検討の目安は「利益800万円超が続きそうなとき」「取引先からの法人要請」「採用の本格化」など
法人に貯めたお金は個人のお金とは別管理になる、という点は最初から知っておきましょう
創業融資は個人事業主でも活用できる
個人事業主と法人、最初はどちらで始めるべき?
多くの場合、まず個人事業主で始めて、事業が軌道に乗ってきたら法人化を考える、という流れが一般的です。
個人事業主は開業届を出すだけでスタートでき、設立費用もかかりません。法人に比べると、始めるときも、事業をやめるときの手続きもシンプルです。まずは個人事業主としてスタートし、事業の方向性や収益が見えてきた段階で法人化を検討する。このステップを踏むことで、無理なく事業を成長させていけます。
特に副業や週末起業のように、月数万〜数十万円の収入から小さく始める段階では、法人化のメリットよりコストや手間のほうが上回りがちです。まずは個人事業主で感触をつかむのがおすすめです。
もちろん、最初から法人で始めたほうがよいケースもあります。
取引予定の企業から法人格を求められている
複数人で出資して事業を立ち上げる
許認可や事業の性質上、法人でないと始められない(不利になる)
個人事業主と法人の違いは?
両者の主な違いを表にまとめました。それぞれ良い面・気をつけたい面がありますので、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
個人事業主 | 法人 | |
|---|---|---|
設立コスト | 0円(届出のみ) | 株式会社で約17万円〜/合同会社なら約6万円〜 |
税の仕組み | 所得税(累進課税)。赤字なら所得税ゼロ | 法人税(ほぼ一定税率)+役員報酬に所得税。赤字でも法人住民税の均等割(年約7万円)あり |
社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金に加入。将来の年金が手厚くなる反面、会社負担分のコストも発生 |
経理・申告の手間 | 比較的シンプル。ご自身で確定申告まで行うケースも多い | 決算・申告が複雑なため、顧問税理士をつけて申告まで依頼するのが一般的 |
信用力 | 取引先によっては「法人でないと契約できない」ケースも | 法人格があることで取引の幅が広がる |
節税の幅 | 経費の範囲がやや限定的 | 経費にできる範囲や、退職金など個人にはない制度を使える場面がある |
責任の範囲 | 無限責任 | 有限責任(出資額まで) |
法人化すると経理や社会保険の事務は増えますが、その分だけ節税の選択肢が広がったり、将来の年金が手厚くなったりと、事業を大きくしていくうえでのメリットも大きくなります。
法人化するとどんなメリットがある?
法人化には大きなメリットがあります。事業が成長してきたタイミングで法人化すると、こんな良いことがあります。
社会保険で将来に備えられる:厚生年金に加入することで、国民年金に上乗せされる形で将来の年金を増やせる
信用力がアップ:法人格があることで取引先の幅が広がり、融資の際にも決算書で事業の状況を示しやすい
退職金制度が使える:法人なら役員退職金を設計でき、税制上の優遇を受けながら将来の資金を準備できる
責任が限定される:万が一のとき、個人の財産を守りやすい(有限責任)
事業が育ってきたら、法人化は「次のステージに進むための前向きな選択」です。
法人化を検討するタイミングの目安は?
利益が伸びてくると、「そろそろ法人化したほうがいいのかな?」と気になり始める方が多いと思います。以下のような状況が出てきたら、法人化を具体的に考えてみるタイミングかもしれません。
1. 利益800万円を超えて、さらに伸びていきそう
ひとつの目安として、利益800万円くらいが「検討を始めるライン」。法人税率のほうが有利になってくるラインです
ただ、実際に踏み切る目安はもう一歩先で、800万円を超えてさらに伸びていきそうだと感じたときです。個人の所得税は利益が増えるほど税率が上がりますが、法人税はある程度の利益までは税率がほぼ一定です。利益が大きくなるほど、この差で法人のほうが有利になりやすくなります
利益が一時的に跳ねただけのときは、もう少し個人のまま様子を見てもいいかもしれません
2. 取引先から法人格を求められている
「法人じゃないと契約できない」というケースは実際にある
営業や事業拡大のために法人化が必要になるパターン
3. 従業員を雇い、採用を本格化したい
求職者から見ると、社会保険や福利厚生が整っている・信用しやすいといった理由で、法人のほうが安心感を持たれやすい面がある
採用力を高めたいなら、法人化はプラスに働きやすい
4. 消費税の免税期間をリセットしたい
法人成りで条件を満たせば、原則2年間の免税期間が得られます
ただし取引先からインボイス登録を求められている場合など、1年目から課税事業者になることもあるので、事前に確認しておきましょう
知っておきたい「法人のお金」の話
法人に貯まったお金は、社長個人のお金とは別物です。法人で利益が出ても、それをそのまま個人の財布に入れることはできません。個人で使うには、役員報酬として受け取るか、配当として受け取るか、いずれにせよ「個人に動かす」プロセスが必要になります。
なお、会社のお金を手続きを踏まずに個人の用途に使うと、役員への給与や貸付とみなされ、税負担が増えたり、会社への返済が必要になったりする場合があります。貸付金が残っていると、金融機関からの評価に影響することもあるので、ここは気をつけたいポイントです。
法人と個人のお金は別、というのは法人の基本ルールです。最初から知っておくと、法人化したあとも戸惑わずに済みます。
法人にお金を貯めていく場合、最終的にどう回収するかも頭の片隅に入れておくと安心です。主なパターンはこの3つ。
退職金として受け取る:退職所得は税制上の優遇が大きく、法人ならではの出口戦略として活用される
株として次世代へ引き継ぐ:事業承継のタイミングで、法人の株式を後継者に渡す
M&Aで売却する:法人ごと第三者へ譲渡し、株式譲渡対価として受け取る
「法人化したらすぐ決めなきゃ」という話ではありませんが、こうした選択肢があることを知っておくと、将来の計画を立てやすくなります。
法人化で増えるコストも知っておこう
法人化のメリットは大きいですが、増えるコストもあります。事前に把握しておくと、「こんなはずじゃなかった」を防げます。
社会保険料の会社負担分(給与の約15%)
法人住民税の均等割(赤字の年でも約7万円)
税理士報酬(法人は決算が複雑なので、顧問契約で依頼するのが一般的)
設立時の費用(株式会社で約17万円〜、合同会社で約6万円〜)
こうしたコストを含めたトータルで見て、法人化したほうがプラスになるかを確認しておくと安心です。
融資・資金調達は法人じゃないとダメ?
「融資を受けるなら法人のほうがいいですか?」「設備投資が大きいと法人じゃないと借りられないのでは?」というご質問もよくいただきますが、個人事業主でも融資は受けられます。日本政策金融公庫の創業融資は、法人・個人を問わず使える制度なので、個人事業主でも問題なく申し込めます。
法人のほうが決算書で事業の状況を示しやすく、金融機関からの評価につながりやすいという面はあります。ただ、個人事業主で融資がうまくいきにくい一つの要因として、事業のお金と生活費が混ざってしまい、計画が見えにくくなっているケースがあります。
つまり、
事業用と個人用の口座をきちんと分ける
しっかりした事業計画書を用意する
これができていれば、個人でも設備投資を含む融資を受けられる可能性は十分あります。「融資のために法人化しなきゃ」というよりは、まず事業のお金の管理を整えることが大事です。
目先のコストだけじゃなく、「これからどうしたいか」も大事
法人化の判断は、税金やコストの計算だけでは決まりません。「これから事業をどうしていきたいか」という視点も、とても大切です。
事業をもっと大きくしていきたい → 法人化で信用力・節税の幅が広がる
今の規模でしっかり続けていきたい → 法人化のメリットとコストを天秤にかけて判断
一時的に伸びただけで、先はまだ見えない → もう少し個人で様子を見るのも手
法人化は一度すると簡単には戻せないので、目先のコストだけでなく「これからの方向性」もあわせて考えるのがおすすめです。迷ったら、私たちと一緒に整理してみましょう。
まとめ
まずは個人事業主で始めて、タイミングが来たら法人化、が一般的な流れ
法人化すると節税の幅・社会保険・信用力・退職金制度など、メリットが大きい
検討の目安は「利益800万円超が続きそう」「取引先からの法人要請」「採用の本格化」など
法人のお金は個人のお金とは別管理。最初から知っておくと安心
コストだけでなく、「これからどうしたいか」という事業の方向性もあわせて考えよう
最適なタイミングは、事業の状況や将来の計画によって異なります。「自分の場合はどうだろう?」と思ったら、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q. 個人事業主から法人成りすると、消費税はどう変わりますか?
A. 法人成りで新設法人の条件(資本金1,000万円未満等)を満たせば、原則2年間の免税期間が得られます。ただし取引先からインボイス登録を求められている場合は、1年目から課税事業者になるケースもありますので、事前に確認しておくのがおすすめです。
Q. 法人化の目安となる利益ラインは?
A. ひとつの目安として、利益800万円超が続きそうなタイミングです。ただし社会保険料・家族構成・事業計画によって変わりますので、「これくらいの利益が続きそうだな」と感じたら、一度シミュレーションしてみることをおすすめします。
Q. 法人にお金を貯めたら、どうやって回収するんですか?
A. 在任中は役員報酬として受け取り、退任時には退職金として受け取るのが基本です。特に退職金は税制上の優遇が大きく、出口で活用する設計は法人ならではのメリット。さらに将来的には、親族や後継者へ株式を引き継ぐ「事業承継」と、第三者へ会社ごと売却する「M&A」という選択肢もあります。「法人化したらすぐ決める」必要はありませんが、知っておくと将来の計画が立てやすくなります。
Q. 一人社長でも法人化するメリットはありますか?
A. あります。厚生年金への加入で将来の年金が増える、退職金制度を活用できる、取引先からの信用力が上がる、といったメリットがあります。会社負担分の社会保険料や均等割は増えますが、利益水準が十分であれば、トータルでプラスになることも多いです。
Q. 合同会社と株式会社、どちらがいいですか?
A. 設立費用を抑えたいなら合同会社、対外的な知名度・信用力や、複数人での出資を見据えるなら株式会社、という選び方が多いです。複数人で出資する場合は、出資した割合に応じて発言権(議決権)が決まる株式会社のほうが、後々の関係を整理しやすい面もあります。迷ったときは、ご事情をうかがいながら一緒に整理しますので、お気軽にご相談ください。
ご相談はワタリエ会計事務所へ
個人事業主と法人、どちらで始めるか・いつ法人化するかは、一人ひとりの事業内容や将来の計画によって変わります。「自分の場合はどうだろう?」と思ったら、ぜひ一度お話しさせてください。
ご相談はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。
この記事を書いた人
ワタリエ会計事務所 公認会計士・税理士 五反田 航
埼玉県ふじみ野市の会計事務所。freeeを活用した創業・経理のサポートをしています。
※本記事は2026年5月時点の制度・税制に基づいています。最新の情報は各公的機関の公式サイト等でご確認ください。


